2011-10-21

すれちがうものたち

娘の合唱コンクールの受付で、教師らしき女に挨拶をする。その態度の冷たさに、自分が置かれている立場の微妙さを感じながら、二階の保護者席へと向かった。保護者か、と、思いながら、わき上がる違和感を噛み殺す。久々に着たスーツは、まったく似合っていないように感じられた。頭にタオル、胸にエプロンを巻き、フライパンを磨いている主夫姿のほうが、ずっと自分らしい、と思う。すれちがう母親たちに会釈をする。顔に貼り付けた笑顔を、崩さないようにしなければならない。母親たちは、すぐに私から離れていく。子供が歌う舞台には、笑顔がふさわしいはずだった。

郊外の道は、どこも広かった。やや冷たさが混じる風が吹き、森の梢を揺らし、土埃をまき散らしていた。タンクローリーが、歩道をゆく私を通り過ぎていく。娘のクラスは、優秀賞を勝ち取っていた。拍手をしながら、席で立ち上がって娘の姿を探した。見つからなかった。なぜか、おめでとうと伝えることが、できないような気がした。伝えるべきことを、タイミングを逃し、そして伝えられたときには、すでに遅すぎるのだ。娘と別れ、ひとりで歩いて家まで帰ることになったのは、娘が、学校の用意したバスでクラスメイトと一緒に戻っていったからだった。たばこを探した。しかしパッケージは空だった。

結婚を申込みながら、もの書きとは結婚できない、という理由で別れた女と、明日会うことになっている。窓の側でたばこを吸いながら、母親にメールを打つ。一緒に児童相談所に足を運んでから、私だけが東京へと旅立つ手はずになっている。合唱祭、よかったよ、とメールを書くと、きっと、うれしかったでしょうね、と返事があった。そんなはずはない、とふいに思い、腹立たしくなる。携帯を机の上に放り投げ、床に寝転がって天井を眺める。ほんとうの娘ではない子供たちのために、やることは山積みだった。女に書いた手紙は捨てた。そしてそのことに何の感慨も持てない自分に気がつき、少し笑った。