2011-12-27

年の瀬

奧さんと私、どっちが好きなのよ、と愛人から質問をされるとする。質問された時点で、男は負けている。

年の瀬が迫っている。今年は何をしていたか。生きていた。そして皿をよく洗った。小説は少し書いた。社会に対して何の貢献もしなかった。色々なひとに「いいひと」だと言われた。嘘ばかりの人生がさらに嘘まみれになった。

朝から電話をしていた。児童相談所だ。ひとに押しつけるばかりの人生でした、と私は懺悔した。いやこれは教会だった。娘に、きらわれたくないんです、と私は自白した。みんなそうですよ、と担当はわらった。窓に自分の顔が映っている。それはほんとうに醜い。

雪が降るかと思うぐらい寒い。車を出すと、道はすいている。夜空にオリオンが瞬いている。ラジオは「告白の失敗談」を流している。女の子に告白しようとして、彼女が三階に住んでいて、ベランダをよじ登ったら、警察に通報されて——私はスイッチを切った。

ドライブインに入ると、奥の席でカップルが口論していた。女は泣いている。男はうつむいている。男を応援したい気持ちになった。がんばれ、男、と思う。泣いている女に勝てる男はいない。悲しんでいる女の前で男は無力だ。なによ、どうせ私のこときらいになったんでしょ、と女が言った。

違う、と私は答える。しかしことばと身体は分離している。口が言っていることを身体が裏切っている。どこからかラジオが聞こえる。最上階のレストランの窓から、都心の灯りが見える。冬の東京は荒涼としている。寒い、と私は思う。女は、じっと黙っている。ウェイターが巨大なケーキを持ってきた。

女に渡すはずだった指輪は、新宿駅のゴミ箱に捨てた。