2012-01-07

ラブレター(3)

プールに淀んだ水が溜まっている。島のあちこちにあった旧イギリス植民地の大邸宅には、庭に必ずといっていいほど個人用のプールが備え付けられていた。かつてそこでは日夜パーティが開かれたことが、荒れ果てた芝生にうち捨てられたテーブルが示している。冬のプールは、滅びさった植民地を思わせる。フェンスの前に立って、寒さに凍えながら濁った水面を眺める。そこに午後の太陽の光がきらきらと反射している。

子供らが夜の駅前に集まって煙草を吸っている。太ももを剥き出しにした少女は草食獣のような顔をしている。金髪の少年は犬のような顔をして笑っている。その中に知った顔を探してみる。脇を通り過ぎながら、携帯を開いた。女の姿はSNSに無く、メールは一通も届いていない。煙草はいつものように切れている。どこにいても獣だらけだった。そして下半身は常に抑圧されている。いつもの売春婦はどこにも見つからない。

女はプールサイドで私を待っていた。広大な敷地内には複数のマンションが建ち並び、その中央には居住者専用のプールがあった。女は座って生ぬるい水に両足を浸し、静かに揺れる水面を眺めている。私はその後ろ、タイルの上に立ちつくし、女の背中を見つめている。ことばを探した。プールにはほかに誰もいない。プールを囲むマンションの窓が、私たちを見下ろしている。頭上には四角く切り取られた空がある。閉じこめられている、と思う。

箱に閉じこめられているものは、壁を殴ることによって自分が閉じこめられたことを知る。空を見上げると、そこには速度を上げて流れる雲があった。駅前商店街で、女へ送るプレゼントを探した。何を贈るべきか、と私は店の老婆に相談してみる。なんでもいいんですよ、と老婆が答える。何を贈っても、どうせ渡すことなどできないのですから。プールの水が撥ねる。空の底で、女を探す。壁はどこにもないのに、どこにも行けない。子供たちが、私を見てわらっている。ユーアーモンスター、トゥルー、モンスター。