2012-04-13

五十人の女たち(4)

風呂で身体をどこから洗うか、という話を女としていた。いつも胸から洗った。いつも一番汚れているところから洗った。しかしいくら洗っても何も洗い落とせなかった。妻が息子と風呂に入っている。私はキッチンでぼんやりとしている。その日仕事はなかった。外から秋の虫の声が聞こえてきていた。息子が笑う声がした。女からメールがあったのはその時だった。女とはテレクラで知り合った。今後援助してほしい、と女は言っていた。次はいつ会える、一でいいよ、と女は書いていた。ホテル代は私が持つことになっていた。私は車の電子キーをポケットに突っ込み、玄関を開いて外に出た。雨が、降り始めたような気がした。

立川のラブホテル前で女と落ち合った。女は、ピンク色の携帯でひっきりなしにメールをしていた。蜘蛛のように細い手足に、青白い顔。女は、ピンクサロンで仕事をしていた。そして稼いだその金を、ホストクラブで散財していた。いらないのよ、お金なんて、と女は言っていた。好きなものに使って、いいじゃない、どうせほしいものなんてないんだから、楽しまなきゃ損じゃない? 部屋に入って、女はすぐ服を脱ぐと、全裸になった。チャックを下ろして、私のものを引っ張りだすと、すぐに口にくわえた。掃除機のようなその口に恐れをなして、女をベッドへと連れていった。

終わった後、女の携帯が鳴った。女は私から受け取った金を器用に片手で財布にしまいながら、電話に出た。あ、お母さん、と女は言った。女が下半身の処理をしながら、母親と朗らかに電話する様子を、私はぼんやりと眺めていた。女の細い身体に、肋骨が浮き出ていた。その身体は使い古された道具を思わせたが、その声だけは人間のように聞こえた。元気にしてるよ、うん、いま友達といるから切るね、と電話を切って、女は私を見た。私も女を見返した。何が、おかしいの、と女は言った。私はなにも、と答えて、煙草をくわえた。

車で女を駅まで送った。ラブホテルの駐車料金は無料だった。助手席に座った女はずっとメールを誰かに書いていた。私の携帯はずっと電源を切ったままだった。しかし誰かから電話がかかってきているような、そういう気がずっとしていた。風呂場で、女に尋ねた。お前は、どこから身体を洗うんだ。女は答えず、洗ってよ、と言った。まず上半身を洗った。そして下腹部を洗うためにしゃがみ込むと、出そう、と女が言った。私はその様子を眺めていた。金色の液体が放射状に床に落ちる様を眺めていた。それはどこか神々しくさえ思えた。妻からの電話が一本、留守電に入っていた。結局雨は降らなかった。降ってほしいときに限って、雨は降らないのだった。