2012-04-15

五十人の女たち(5)――虫の棲む部屋

虫たちがソファに座っていた。ソファに座って生殖器を女にしゃぶらせていた。ピンクサロンにはなぜかいつもBOSEのスピーカーが取り付けられていた。大音量で流れる音楽によって、虫たちが発する呼吸音は隠されていた。店には複数のソファがあった。ソファは背丈ほどの衝立で区切られていた。他の虫たちの姿が見えた。虫の股間には女たちが顔を埋めていた。暗い店内は、どこかしら地獄のように見えた。女たちの身体は白く柔らかく、その空間でゆいいつ人間であるように思えた。

仕事の電話をしていたのだった。ポルトガル語の通訳が送ってきた原稿は最低のひとことだった。ファイルの最後に「すみません」と書かれていた。私は携帯の電源をオフにしてソファに座っていた。ズボンと下着が下ろされた下腹部を、女がウェットティッシュで掃除していた。ずいぶんと色白いのね、と女が言っている。日焼けが大嫌いなんだ、と私は答える。隣のソファでは、もう一匹の虫が、女の髪の毛を掴んで上下させていた。音楽は流れていたが、静かだった。どこもかしこも虫だらけだった。

ダメなの、と女は尋ねた。よくあることだよ、と私は答えて、ズボンをあげてベルトを締めた。ソファの背もたれに身体を預け、目を閉じる。時間は、まだあった。女が私のとなりに座る気配がした。見ると、膝の上で所在無げに手をさまよわせていた。胸の携帯を奇妙に重く感じた。甲虫が羽をきしらせるような音が、となりのソファから響いてきていた。すべてが、いまいましかった。無能な通訳も、虫けらも、女たちも。目を開けると、女と目があった。女はその細い指で膝を指し、ここに寝る? と私に言った。

膝枕をされたまま女の肌を嗅ぐと、イソジンの香りがした。下から顔に手を伸ばし、その頬に触れた。それはあたたかく、生きている体温があった。化粧の下に、ひとの顔があった。もうすぐ、時間のはずだった。女の腹に顔を埋めると、女が笑う気配がした。妻が妊娠したとき、よくこうしたんだ、と私は言った。それは聞こえていなかったはずだった。隣で、虫が出て行くのがわかった。別の女が客を送り出す声がした。やがてベルが鳴って、私は立ち上がる。女は、ありがとうございました、と笑顔を作った。また来るよ、と嘘を言った。嘘をつかねば、虫は人間にすらなれないのだった。