2012-04-17

五十人の女たち(6)

机の上には、通信ログを印刷した書類が山積みになっていた。ジャカルタの取引記録、まる二日分だった。最初から最後まで確認しなければ終わりそうになかった。打ち合わせ室を無理やり借りて、書類を持ち込んだ。邪魔されたくなかったのだ。窓の外には、夏の日差しが照りつける公園があった。公園で、同僚がハードディスクを地面に叩きつけている。上司に壊すように言われたのだろう。音がない世界でハードディスクを壊している同僚の姿は、どこかしら現実離れしていた。ひどい、ひどい! という女の声がした。

マニラには外人向けの売春施設が山ほどあった。支払いは基軸通貨であり世界言語である米ドルだった。私は財布に500ドルほど詰め込んで、支店長に誘われて店まで行ったのだった。奇妙な香が立ち込める店内の真ん中にはステージが設置され、そこで裸の女たちが踊っていた。ステージの前には、白人たちが群れをなして集まっていた。そして女の下着の隙間に、ドル紙幣を詰め込んでいた。顔に浮かんでいる笑いは醜悪だった。まるで鏡に映る自分のようだった。

奥の個室へと案内された。ベルベットのカーテンに、巨大で柔らかなソファ。スイカほどある巨大なクリスタルの灰皿が、テーブルの上できらきらと光っていた。支配人の老婆は、私に日本語で挨拶すると、カーテンの向こうに声をかけた。すると五人ほどの女たちが、順番に私たちの前に姿を見せた。店のように、下着だけではない、ごく普通の格好だった。しかしブラは付けていなかった。いい趣味だろ、と支店長が私に笑いかけた。いいですね、と私は答えた。支店長はきっと経営に関与しているに違いなかった。

妻に少し似た真面目そうな女を選んだ。支店長は巨大な胸のグラマラスな女を選んだ。そしてまた後で、と別室へと消えていった。私の女は、ソファの隣に座った。老婆と他の女は姿を消していた。煙草に火をつけると、すぐにライターで火をつけてきた。英語でいいか、というと、日本語もできるけど、と笑顔を作った。肩を抱き寄せると、少しだけ抵抗があった。それに興奮した。胸の携帯にメールが着信したような気がしたが、無視した。部屋の照明が、少し暗くなったような気がした。

女が案内した部屋には、大きなベッドが置かれていた。窓はなく、天井は高かった。女の身体は柔らかく、私が避妊具をだそうとすると、そのままでいい、と言った。中にだしていいのか、というと、外でお願い、と言った。終わった後、女の身体を拭いてやった。女は、少し驚いたような顔をして、私にされるがままになっていた。下着を着けてやって、私はベッドで煙草に火をつける。女は私を見ていた。お前は何をしているんだ、と私は興味本位で聞いた。大学のお金貯めてるの、と女は言った。

お前は何をしているんだ、と誰かが言っていた。目を開くと、壊れたハードディスクを持った同僚が眼の前に立っていた。根本くん、これ、壊れないんだ、君なら若いし、やってくれないかな、と言った。いま忙しいんです、と私は言って、同僚を外へと追いだして、椅子に座った。眠気があった。女にはドルを二倍手渡した。老婆にも渡しとけ、と言った。そしていい気になっていた自分の姿を思い出した。女は大学に行ったのか、そんなことはどうでもよかった。ただ興味本位で聞いただけだった。買う側にも買われる側にも生活があった、そんなことは当たり前のことだった。不愉快だった。何もかも、耐え難かった。公園で、同僚がまたハードディスクを地面に叩きつけている。ひどいよ、ひどいよ、うそつき、うそつき!