2014-08-02

ビー・ジャパニーズ(3)

クリスマスの電飾が血管のようにシュロの木に絡み付いている。日に炙られたコードは劣化して表面が白っぽくなり、あちこちにひび割れが入って、銅線がむき出しになっている。午後五時だというのにまだ日差しは強く、担任が置いていった箱から新しいコードを物色しているYの影が、地面に黒くくっきりと焼き付いている。私はかび臭い物置から持ってきた脚立を木のそばに立てて上り、木にまとわりつくコードを確認してみる。よく見るとコードはあちこちが切断されている(蟻か何かに切られたのかもしれない)。丘の上に立つ私たちの学校の駐車場からは、さほど遠くないところにタンカーが停泊している港が見え、水面には一向に沈む気配がない太陽がぎらぎらと光って映っている。

セメスターの終わり、クリスマスパーティが週末に学校のホールで開かれることになっていた。私とYは美術教師の担任に放課後呼び出され、駐車場のまわりに生えた木々に電飾を取り付ける作業を言いつけられていた。実際に命じられたのは、ホームルームに遅刻してきたYだったのだが、私が手伝うと申し出をしたのだった。Yはどこか無表情に箱の前にしゃがみ込み、コードを一本一本つまみあげてはもとに戻している。めったにないことだが、Yはスカートの制服を着てきていて、盗み見る私の目に、姿勢を変えたYの真っ白なふくらはぎが飛び込んでくる。慌てて目をそらし、幹から使い物にならないコードを取り外す作業に没頭した。

コードを全部外して、日陰で休んでいるYに手渡す。車の歯止めに腰を下ろしたYのすぐ側を、真っ赤な蟻が列をなして行進し、森へと消えている。Yが肉食の蟻に噛まれるのではないかと思い、私はあぶないよ、と、Yの手を取った。「さわらないで!」とYが突然声をあげて、私は驚いて後ずさる。列を乱した蟻たちが、あちこちに走りまわりはじめる。陽炎の揺れる音が聞こえるような沈黙の後、Yはごめん、と言って、箱を持って立ち上がった。どんな言葉を返せばいいのかわからず、私は曖昧にうなずく。早く終わらせよう、とYはつぶやいた。あと二時間もすれば、日が暮れるよ。蟻が一匹、Yの足にたかっている。それは血の雫のように見ええる。

Yは自分がやりたいと言って、シュロの木に立てかけた脚立を上った。私は箱を持ったまま、Yの背中を見上げている。塩気をはらんだ熱い風が吹いて、私たちの間を通り過ぎる。ふたりの間には大きな隔たりがあるように感じられて、どうしたらよいのかわからず、声をかけようとして、何度も口ごもる。Yはその間、じっと何かを待っているように、木の幹に手を触れたまま黙っている。風がまた吹いて、Yのスカートを大きくふくらませ、大理石のようなその太ももが露出する。蟻はどこかに消えている。どうせ、とYは言った。きみも、見たいんでしょう、わたしのスカートの中にあるものが欲しいんでしょう、きみも他の男と同じように、わたしを裸にして、自分だけのものにしたいんでしょう――。