2017-06-26

光のつよさ、夏のつよさ

暑さがましてきている。窓から斜めに差し込む光の強度があがっている。光のつよさは夏のつよさで、夏にきりとられた部屋ではさまざまなことが起こる。

昔、四季のない熱帯の島国にいた頃は建物はすべてコンクリート製で木造家屋などは見たことがなかった。自然が過酷なので、木造では長いこと家屋が持たないからだ。熱帯では地震もなく台風も赤道直下のため来ない。このため石造りの建物は英国の植民地だった頃から多くが残されていて、当時の雰囲気をそのまま伝えていた。

コンクリートの建物は昼間のうちに日光をあびて熱を蓄え、夜中になっても熱を放射し、寝室も居間もとにかく壁が暑く、海からの風が吹いてこない夜などは、何もしていなくてもだらだらと汗がながれた。

当時の知己のひとりXは寝るときにはいつも下着をつけないで裸で寝ているの、と言っていたことを憶えているが、おそらくからかわれていたのだろう。なにしろXは近くのマンションに住んでいて、わたしのいた棟から彼女の部屋はさほど遠くなかったはずだったからだ。

住んでいた部屋のベランダに出ると眼下には遠く水平線が見え、未開発の野原が広がる側に、彼女が住むマンションがぽつんと建っていた。ある日、何かの用があって、居間の電話からXの家に電話をした。窓の外には焼けつくような日が落ちていた。

しばらくコール音がして、やがてXに似た声の女が電話に出た。「Xはいないわよ」と女はいった。わたしはいっしゅん戸惑い、Xの住むマンションの方角をみる。陽炎のあちら側のどこにXの部屋があるのか、当然わかるはずもなかった。「Xはもうどこにもいないの」と、女は続ける。なにもかもが、あなたのせいなのよ。