2017-07-15

先払いのかなしみ

気象庁によればまだ梅雨明けしていないが、もう完全に盛夏の蒸し暑い天気が今日も続いている。だんだん季節が熱帯に近づいているような気がする。地球温暖化のせいなのか、いろいろ見聞きして結局わたしにはよくわからないのだが、夏は昔よりもより暑くなって、冬はより寒くなっているような印象がある。子供の頃は夏はクーラーなどなくともわりと快適に過ごしていたが、あれは木造の日本式家屋に住んでいたから可能だったので、コンクリートに囲まれた都市でクーラーなしでは当時も無理だったのではないかということを思う。石が昼の間に日光で焼けて夜中になっても熱を発するからだ。木造家屋だとそんなことはない……というかなかったように思う。昼間に庭の土に水をまくとその周辺がひんやりしていたことを憶えているが、コンクリートは水をまいてもまさに焼け石に水という感じだ。わたしの生家は築百年程度のものすごいぼろ家だったのでよくその時のことを思いだすが、いまとなっては貴重な体験だったということを思う。冬場は畳や壁の隙間から冷風が吹き込んでくるし、軒下には猫が住み尽くし、梅雨には雨漏りするし、最低のぼろ家だったが、わたしは好きだった。いまではもう取り壊されて存在しないが、その時の記憶がいまでもかけがえのないものとしてのこっている。誰でもそういうかけがえのない記憶があるだろう。

熱帯の島国に住んでいた少年時代にはよく引っ越しをした。その時に住んでいたフラットのことはどれもよく憶えている。といっても断片的な記憶で、なぜか鮮明に思いだすのは、窓の前、スコールを眺めている自分を後ろから見つめている様子だ。不思議だが、記憶の中ではなぜか自分のことを後ろから見つめている。とても大きな雨粒がアスファルトに降り注いでいて、大きな水たまりにたくさんの波紋をえがいているーーそこには当時のわたしには存在しえない、理由のないかなしみがあった。その後に起こることをすべてその時知っていたとしたらどうだろう、ということを思う。たぶん、わたしは、まったく同じことをするだろう。またしても同じ間違いを繰り返すだろう。

ひとの人生には後悔などない。ただ先払いのかなしみがあるだけである。