2017-07-04

そこだけの夏

シャッター商店街の裏手にあるショッピングモールという名前の零細商店が集まる広場の看板が台風で倒れてから一年が過ぎた。店はそれぞれなんとか営業をしているが、看板はこわれたまま放置されていた。本日クリーニングした衣類を持って帰宅するときその近くを通ると、看板が立っていた柱のところに、シュロの木らしきものが植えられ、蒸し暑い風に揺られていた。そこだけが夏だった。

猫たちは郵便局の前で暑さでだれてぐったりしている。腹が大きいところをみると妊娠しているようだ。次から次へと子供をつくり増えては消えてゆく。草むらにひそんでいる虫たちは秋にむけて食欲が旺盛であり、たくさん食べたものは大きな卵を産むに違いなかった。ひるがえって旧公団住宅は静かで、老人たちしか住んでいない。わたしの家では子供が眠っているはずだったが、あたりは風が吹く音以外はとても静かだ。

夕暮れの強い日差しが路上に斜めに落ちており、どこかで救急車が出動するサイレンの音が遠くにきこえる。アスファルトに自転車の影が落ちている。うつむいた老人たちとすれ違うが、かれらは一様に疲れた顔をしている。なにに疲れているのか。本人にもわからないかもしれない。おそらくわたしも疲れた顔をしている。笑った顔をつくってみると、土に落ちた影がわらっている。きりとられた夏の夕べがやってくる。